戻れない失敗をする前に、立ち直れない地雷を踏む前に、会社が教えてくれない、
働くオトナが知っておくべき社内防衛の知恵を伝授します。
一社員の時はうまくいっていたのに、「リーダー」のポジションに就いた途端にうまくいかない。
リーダーとしてがんばればがんばるほど、部下との距離は開き、ドツボにはまる。
そんな中間管理職の悩みが数多く聞こえてくる。
一方で、“成功している”リーダーがいる。失敗と成功、その差を分けるものは何なのか。
人事コンサルタントの内海正人さんに「ありがちなリーダーの失敗」を列挙してもらうと――。
「『オレのようにやれ!』というワンマン型のリーダーの失敗が目につきます。
結局、部下はどうしたらいいかわからず、うまくいかないのです。
これは、90年代に成果主義が導入されて以降、リーダーが年功序列ではなくなったことも影響しています。
優秀なプレーヤーが、リーダーに引き上げられるケースが増えているのですが、
こうした人たちが、自分の仕事を部下に伝えられない。
また、伝えたり教えたりすることを『余計なこと』と思っているのです」
自分を客観視して双方向の関係に
リーダーの自覚がないから、部下への指示は、一方的になる。
「ミスに対し、頭ごなしに怒る。よくある失敗です。勢いに任せてまくし立ててしまうのです。
仕事の任せ方も一方的で、『育成』と称して何も指示せず丸投げしたり、そうかと思うと、1から10まで報連相を強制したりする。
“自分”が見えていないんですね。自分の仕事の仕方はどうなのか、そこを客観的に検証できていないのです」
自分が見えなければ他人も見えない。
「年下の上司が年上に細かく指示を出して煙たがれたり、逆に新人に丸投げしたり、
相手を把握しないで振った仕事が、一大事に発展するということは多いようです」
言わなければ伝わらないが、言いすぎるとそっぽを向かれる。
熱意も腹八分目で止めておけば、ほどよい関係を保てるのだ。
「褒められて育つ」と宣言する社員
「先日、ある編集プロダクションの社長から、『チームとしてのまとまりがない』と相談を受けました。
よくよく話を聞いてみると、出社時間がバラバラであることに原因がありました。
あまりにも違いすぎて一体感がないんですね。
そのことを社長に伝えると、『実は自分の出社時間もまちまちだ』という。
『社員には何も言わず、社長の出社時間を早めかつ一定にしてください』とアドバイスしました。
その会社は、その後、午前中にはみんなが集まるようになり、チームの一体感が出てきたそうです。
チームの問題は、リーダーに起因していることが多いのです」
部下にも問題はある。
「入社の挨拶で『僕は褒められて育つタイプです』という新入社員が多くなっています。
上下関係にも慣れていませんから、上司からみても扱いにくい。
彼らは、就職氷河期を勝ち抜いたというプライドもありますから、
下手な怒り方をすると、近寄ってこなくなる」
だからこそ、チーム作りはよりいっそう、重要になってくる。
部下は人格でなくスキルで判断する
厚労省の調査(2012年12月)では、4人に1人が職場でのパワハラを受けた経験があるという。
「人間だから好き嫌いがあるのが当然です。
しかし部下を人格で判断していると、部下の失敗時に人格否定をしてしまう。これはパワハラです。
そうしないためには、部下を日頃からビジネススキルで判断するのです。
ミスもスキルの問題になりますから、技術的なことを注意すれば事足りるのです」
世代も違えば、育ってきた環境も違う部下。どうやってコミュニケーションをとればいいのか。
多いのは、「叱り方と褒め方の失敗だ」と内海正人さんは言う。
「リーダーは『褒め上手』になるべきです。褒めるが8ならば、叱るは2といったところでしょうか。
ただ褒め方の失敗も多いんです。本人はよかれと思って『いい成績だったな』と褒める。
しかしこれ、ただのおべんちゃらと思われてしまい、むしろマイナスです。
『先月より10%伸びたね』など、具体的な数を入れて褒めてあげると、
相手は『自分のことを見てくれているんだな』とやる気が出る」
お世辞でも、声をかけている分にはまだいい。中には、「声かけ」不在の会社もあるという。
「あるIT企業の話です。その職場は、いつでも静かなんですね。
同じ部署の人間同士のやりとりもメールで、『おはよう』の挨拶すらない。
結果を出せばいいじゃないか、という人もいるかもしれませんが、
こういった企業の業績は、間違いなく低下していきます。なぜならチーム力で落ちるからです」
人間関係は質より量で決まる
では、どうしたらいいのか。
「そんな単純なことか、と思われるかもしれませんが、リーダーが率先して挨拶をすることです。
部下の顔を見たら声をかける、ということを繰り返すのです。
コミュニケーション初期段階は、質よりも量が大事なのです。
部下と二言三言声をかけ合っているうちに、性格もわかってくるし、
『こいつならここまで言ってもいい』というラインも見えてくる。
同じ台詞でも、片方はセクハラで起訴、片方はセーフ、ということが起こるのはそういうことなのです」